力関係や序列の下馬評を覆す「番狂わせ」は人々に衝撃を与える。まもなく決勝トーナメントに入るサッカーワールドカップ(W杯)北中米大会で、欧州や南米の強豪が勝ち点を落とすと世界中で話題になった。

日本の選挙も波乱が立て続けに起きている。2月の衆院選後、地方首長選で新人が現職に勝つ例が目立つ。知名度や地元団体との結びつきで優位な現職を破る「ジャイアントキリング(大物食い)」だ。

たとえば3月の東京都清瀬市長選。自民党推薦の現職が共産、社民両党が推薦する元市議に敗れた。4月19日投票の市長選は現職13人のうち8人が落選した。

地方選の勝敗を分析すると、この3年ほどで番狂わせの割合が徐々に高まっていることが分かる。衆院選後の今年3~4月に実施された市区長選(無投票を除く)で、出馬した現職が敗れた割合は39%だった。

地方自治総合研究所が同様の基準で集計したところ、25年4月までの1年間は37%。その前の1年間は24%、さらに前の1年間は15%だった。新型コロナウイルス禍前の5年間は2割前後で推移していた。

データからは全国的に現職の敗北が起こりやすくなっていることがうかがえる。何が起きているのか。

北海学園大の堀内匠教授は「長期的に組織票が動きにくくなっている。そこへ昨秋の自公連立解消、衆院選前の中道改革連合の結成で『浮動票化』した公明党票が非自民候補に流れやすくなった」とみる。

業界団体や労働組合といった中間団体は組織率の低下が続く。選挙で投票先を呼びかけても、以前のようにはまとまらない。地域に根ざした後援会組織を持つ市議出身者らが団体の組織票を持つ多選の現職を破る例が目立つと指摘する。

自民党の閣僚経験者は「新陳代謝が求められている」と話す。首長の「与野党交代」が乏しい地方でも、当選を重ねた現職への世代交代の圧力はあるという。

組織票や固定票の壁を切り崩す要素は増えている。SNSによるリアルタイムの情報拡散やネット動画の視聴の広がりも影響する。知名度で劣る候補でも、短期間に浮動票を開拓して情勢をひっくり返す余地は前より大きい。

衆院選で大勝した自民党には衝撃が広がる。党の地方組織には「衆院選は勝ったが地方選は勢いを欠く」という声が多い。党幹部のひとりは「緩みや詰めの甘さがある」と警戒する。

鈴木俊一幹事長は21日の党北海道連の会合で「慢心してはいけない」と訴えた。27年春に統一地方選を控える。28年参院選での各地の支持基盤を左右する重要な選挙だ。国政の行方に直結するとの危機感がある。

スポーツで番狂わせを起こして勝った選手やチームは一躍スターダムに駆け上がり、ファンが急増する。

W杯でスペイン、ウルグアイと引き分けて32強に進んだ初出場国のカボベルデ。ゴールを守るボジニャ選手のインスタグラムはフォロワー数が試合前の5万から1700万を超えた。

日本では国政が混乱すると、地方選で名を上げた政治家が影響力を発揮することがある。熊本県知事から日本新党を立ち上げて首相になった細川護熙氏、大阪市長から日本維新の会を創設した橋下徹氏らだ。

高市早苗政権は衆院で圧倒的多数を持つとはいえ、参院は少数与党のまま。政権運営は安定していない。

自民党の政党支持率も回復しきっていない。野党党首の一人は「いまは政治家に求められるスキルが変わり、国政に新人が参入しやすい」と語る。地方選で続く番狂わせは何をもたらすだろうか。

(宮坂正太郎)