脚本家の大もりみかは、25年前に恋愛小説家の狗飼恭子と出会った。当時、脚本家として活動しながら自主映画を撮っていた大もりは、華やかな印象の狗飼に気後れを感じていたが、仕事を通じて意気投合し、共同で映画を制作する仲となった。 制作過程で、大もりが自身の価値に悩み夜中に電話で相談した際、狗飼は「今のままで大丈夫」と優しく寄り添い、二人は親密な関係を築いた。大もりが30代の終盤に結婚した際、狗飼は夫に向けて大もりの「取扱説明書」のような手紙を書いてくれた。その内容は今も大もり自身は知らないが、そのことが嬉しく、現在も家族ぐるみの付き合いが続いている。
Sourcehttps://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO97172970W6A620C2BC8000
なんだか心の中を見透かされそう――。25年ほど前、恋愛小説家の狗飼(いぬかい)恭子さんと初めて会ったとき、そんな気がした。私は脚本家として独り立ちしたばかりで、並行して自主映画を撮っていた。その仲間からの紹介だった。恋愛小説家というキラキラした響きに気後れしつつ、ご自宅での鍋パーティーに招かれ参加すると、エスニック調の洋服をおしゃれに着こなす美しい人で、装うことに興味がない私とは正反対だった。
しかし、互いの仕事について話すうちに意気投合。彼女も映像制作に興味を持っていて、一緒に映画を撮ることになった。男性作家の主人公が2人の女性に翻弄されるストーリーで、私が脚本・監督。狗飼さんは美術担当に。毎日のように会ううち、どんどん打ち解けて恋愛話にも花が咲いた。深夜に泣きながら電話で相談したこともある。「自分は価値のない人間だ」と訴える私に、「今のままで大丈夫」と常に優しく応じてくれた。
30代の終盤、私は結婚することになった。その式の際に彼女は私の夫宛てに手紙を書いてくれた。どうやら私についての「取扱説明書」のようだった。私自身は読んでいないし、夫に内容を聞いたこともない。けれど、嬉(うれ)しかった。おかげで今も家族ぐるみのお付き合いが続いている。
(おおもり・みか=脚本家)