なんだか心の中を見透かされそう――。25年ほど前、恋愛小説家の狗飼(いぬかい)恭子さんと初めて会ったとき、そんな気がした。私は脚本家として独り立ちしたばかりで、並行して自主映画を撮っていた。その仲間からの紹介だった。恋愛小説家というキラキラした響きに気後れしつつ、ご自宅での鍋パーティーに招かれ参加すると、エスニック調の洋服をおしゃれに着こなす美しい人で、装うことに興味がない私とは正反対だった。

しかし、互いの仕事について話すうちに意気投合。彼女も映像制作に興味を持っていて、一緒に映画を撮ることになった。男性作家の主人公が2人の女性に翻弄されるストーリーで、私が脚本・監督。狗飼さんは美術担当に。毎日のように会ううち、どんどん打ち解けて恋愛話にも花が咲いた。深夜に泣きながら電話で相談したこともある。「自分は価値のない人間だ」と訴える私に、「今のままで大丈夫」と常に優しく応じてくれた。

30代の終盤、私は結婚することになった。その式の際に彼女は私の夫宛てに手紙を書いてくれた。どうやら私についての「取扱説明書」のようだった。私自身は読んでいないし、夫に内容を聞いたこともない。けれど、嬉(うれ)しかった。おかげで今も家族ぐるみのお付き合いが続いている。

(おおもり・みか=脚本家)