米労働省は7月2日、6月の雇用統計を発表する。米イランが戦闘終結で合意し、世界的なエネルギー不足が緩和するとの期待が高まる。今後の米景気を占う重要統計で堅調ぶりが確かめられれば、米連邦準備理事会(FRB)内の年内利上げ論を後押しする要因になりそうだ。

月次の雇用統計は翌月初めに公表される速報性が売り物で、農業部門を除く就業者数や失業率が関心を集める。物価の安定とともに雇用の最大化を使命とするFRBの金融政策に直結するとの思惑から、統計公表後は金融政策の先行きを映す米2年債利回りが大きく変動することもある。

5月までの直近3カ月は米労働市場の底堅さが目立った。就業者数の前月からの増加幅を平均すると月18.8万人と、2年2カ月ぶりの伸びを記録した。5月は飲食店を含む娯楽・宿泊業や、高齢化を背景に求人需要が大きい医療分野が雇用回復をけん引した。失業率も4.3%で安定している。

市場は6月の就業者数が7.5万人増えると予想する。5月までと比べると勢いが鈍る格好だ。それでも「雇用はなお堅調」との見方が多く、失業率の予測は横ばいの4.3%だ。セントルイス連銀は月1.5万~8.7万人の雇用増なら失業率も安定すると推計する。トランプ政権の移民制限などで労働力人口が増えにくくなっていることが背景にある。

統計の結果が市場予測より上振れするなど雇用環境への楽観的な受け止めが広がれば、FRBが政策金利の引き上げに動くとの観測が強まる可能性がある。

FRBは17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後に参加者の経済予測を公表した。ウォーシュ議長を除く18人が示した2026年中の政策金利の見通しを中央値でみると「年内は利上げ1回」となった。前回3月の「利下げ1回」から転換した。

中東情勢の混迷をきっかけにインフレへの警戒が高まったためだ。FRBがインフレ指標として重視してきた米個人消費支出(PCE)物価指数の予想は、26年10~12月期の前年同期比上昇率が3.6%となった。前回の2.7%から高まった。

6月の雇用統計で労働市場の堅調さが浮き彫りになり、金融引き締めを織り込む動きが増えれば外国為替市場では円安・ドル高が一段と進む要因になりうる。

雇用情勢は楽観一色ではない。「ここ数カ月、雇用は増えたが労働市場が引き締まっているとは言えない」(米オックスフォード・エコノミクスで米国担当チーフエコノミストを務めるマイケル・ピアース氏)との声もある。

気がかりなのが賃金の伸び悩みだ。5月の平均時給の上昇率は前年同月比3.4%と、4月の3.6%から縮まった。消費者物価指数(CPI)は1年前から4.2%上がった。物価の伸びが給与の伸びを上回り、実質賃金は減少に転じた。この傾向が続けば家計の購買力を奪い、消費の勢いをそぎかねない。

景気の動向に敏感に反応するとされるパートタイム労働者の賃金上昇率は急速に鈍化している。アトランタ連銀の分析によると、過去12カ月の移動平均をとった5月の時給上昇率は前年同月比2.3%と、18年4月以来およそ8年ぶりの低水準となった。

新型コロナウイルスの流行が収まった後、労働需給の逼迫で一時は6%近くまで高まっていた。直近の低下は正常化の範囲内とみる向きもあるが、伸びが一段と縮まるようであれば雇用の弱さを映す懸念材料として市場が注目する。

(ワシントン=川手伊織)