日本ケンタッキー・フライド・チキンの元社長である大河原氏は、退任後に三菱商事らから和食系の外食事業を譲り受け、注文を受けてから丁寧に調理するスローフードのスタイルを追求している。活動の舞台は北海道八雲町にある「ハーベスター八雲」である。氏は、自然環境や景観を守るために道路用地の確保に関する提案を断るなど、地域の環境を守るための信念を貫いてきた。現在は、2009年にオープンした「噴火湾パノラマパーク」での地産地消のメニュー提供に加え、地域の新たな価値創造としてウイスキー造りにも取り組んでいる。 ウイスキー造りに際しては、かつての恩師であるドイル神父の助言を受け、アイルランド大使館を通じて現地の業者との商談を進めている。氏は、亡き神父への恩返しとして、シルキーでまろやかな八雲産ウイスキーの完成を目指しており、八雲町の緩やかな進化と共に、同地のさらなる発展に寄与していく決意を示している。
Sourcehttps://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO97172900W6A620C2BC8000
「これからはファストフードではなく、スローフードの時代ではないか」
2002年に日本ケンタッキー・フライド・チキンを辞め、同社と三菱商事から焼鳥店など和食系の外食事業を譲り受けた。第2の外食人生では心温まる新たな食の提案をしようと考えた。注文を受けてから丁寧に調理しテーブルにお出しするスタイルだ。
それにふさわしい舞台が、北海道の「ハーベスター八雲」だった。ケンタッキーの社長退任の挨拶で八雲町長にお会いした際、思いもかけない提案を受けた。
「ハーベスターの老朽化した白い柵を、町のお金で修繕させていただけませんか」。話を伺うと、八雲の隣接地に道立公園の整備が決まり、北海道から予算が回ってきたのだという。実は、年季の入った柵の修理に頭を悩ませていた。渡りに船だと思った。
町長は「もう一つ、お話があります」とニコリ。「うまい話には裏がある」と身構えたら、「北海道縦貫道路が延伸予定で、ハーベスターの近くにサービスエリアを作るので敷地内に道路用の用地を確保してくれませんか」。この提案も八雲に賑(にぎ)わいをもたらすものだから快諾した。
ところが私はしばらくして約束した縦貫道関連の計画に「協力できません」と断った。道路が広大な農場を分断し、美しい自然、景観を守れないと思ったからだった。すると地元自治体などで大騒ぎになり、「大河原は裏切り者だ」と批判を浴びせられた。だが譲れない一線だった。
事態の推移を見守っていると、農場を迂回することになり、私の懸念は払拭された。道立公園も09年に「噴火湾パノラマパーク」として全面オープン。敷地内のレストランでは地元の野菜、肉・魚介を使った料理など八雲らしさを前面に打ち出したメニューでおもてなしをしている。
ハーベスター八雲は自然の恵みにあふれている。もっと魅力的な場所にできないかと考えていると、八雲町などがウイスキー作りを検討していることを知り、お手伝いをすることにした。
ただ、ウイスキーの製造はたやすくない。熟成まで3年はかかる。
まずは世界的な産地の一つ、アイルランドと関係を持ちたいと考え、私が栄光学園と上智大学でお世話になった同国出身のドイル神父様に相談した。神父様は「ウイスキーの世界の中心はアイルランドです。スコットランドではありません。協力しましょう」と同国大使館を紹介してくださった。
なぜ、神父様が「世界の中心」と言ったのか。それはアイルランド出身の神父様は栄光学園の授業では必ず、同国が真ん中に位置する世界地図を黒板に貼っていたからだった。
ここから話が動き出した。大使館を通してアイルランドの複数のウイスキー業者と商談が始まった。私も9月に現地に行き、蒸留所を見て回る予定だ。
ドイル神父様に進捗状況を報告に行くと、「いつ飲めますか。楽しみにしていますよ」と仰(おっしゃ)っていたが25年5月6日、天に召された。神父様のためにもシルキーでまろやかな八雲産ウイスキーを作って恩返しをしたい。
八雲はゆっくりと、確実に進化し、新たな価値を生みだしてくれている。これからも八雲の発展を見守っていただきたい。
(日本ケンタッキー・フライド・チキン元社長)