【ベルリン=杜師康佑】ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が世界で最大10万人規模の人員削減を検討している。高い生産コストや技術転換の遅れなど3つの構造問題を抱え、低収益体質から脱却できずにいる。リストラ拡大という荒療治で「欧州の病人」からの復活を目指すが容易ではない。

独経済誌マネジャー・マガジンによると、VWは最大10万人規模の人員削減を計画している。7月9日の監査役会で人員削減を含む長期戦略を協議する予定だ。

30年までにグループ全体で5万人を削減する方針を26年3月に表明していた。今回のリストラが断行されれば削減規模はさらに膨らむ。10万人は全従業員65万7000人の約15%に相当する。

ドイツ国内工場が閉鎖される可能性もある。北部のエムデンやハノーバー、東部ツウィッカウのほか、南西部ネッカーズルムにある高級車ブランド・アウディの拠点を含むグループの4工場が候補として浮上している。

世界販売台数でトヨタ自動車に次ぐ世界2位の自動車メーカーが苦境から脱却できないのはなぜか。

「ドイツで車を開発し、欧州で生産し、世界中で販売するというビジネスモデルはもはや通用しなくなった」。18日、オリバー・ブルーメ社長が年次株主総会の場で述べた言葉にそれは凝縮されている。

ドイツをはじめとした欧州は生産コストが高い。米コンサルティング会社のオリバー・ワイマンが世界の自動車産業における車1台あたりの労働コストを比較したところ、24年時点でドイツは3307ドル(約53万円)だった。日本(769ドル)の4.3倍、中国(597ドル)の5.5倍だ。英国やイタリア、フランスも人件費が高く利益を圧迫する。

VWグループのポルシェやアウディのほか、独メルセデス・ベンツグループ、独BMWなどドイツは高級車ブランドを多く抱えるという理由もあるが、製造ラインでの自動化の遅れや強力な労働組合の存在といった要素が絡み合い高コスト体質から抜け出せないでいる。

ロイター通信などによると、メルセデスのオラ・ケレニウス社長は従業員向けの書簡で「開発、営業、管理、生産のすべての分野で、同じ給与でより多くの仕事をこなす必要がある」と記し、生産性向上の必要性を訴えた。

2つ目の問題はグローバル市場を失いつつある点だ。VWの26年1~3月期の北米販売は前年同期比で13%減少した。25年9月にトランプ米政権が電気自動車(EV)購入の税額控除を廃止したことが影響し、26年4月には米国でEV生産を終了することを発表した。

中国販売は現地企業との競争が激化し、15%減った。地盤とする欧州では存在感を保っているものの、米中という二大市場での販売失速が経営に打撃を与えている。米政権による政策変更に翻弄され、台頭する中国の新興勢力に競り負ける構図が続く。

3点目がデジタルを中心とした技術転換の遅れだ。ソフトウエアを更新し車両の機能を向上させるオーバー・ジ・エア(OTA)では米テスラや中国勢に後れを取る。

デジタル化のスピードアップを図るため、20年にグループ統一のソフト開発子会社カリアドを立ち上げたが、出身ブランドへの帰属意識の高さから開発遅れが続いた。カリアドは今回の人員削減の対象となっている。

自動運転を実現するために欠かせない人工知能(AI)も中国新興の卓馭科技(ZYT)や地平線機器人(ホライズン・ロボティクス)に頼る。

VWが抱える構造問題は欧州の自動車関連メーカーの多くに共通する。BMWは16日、中国市場での販売不振で26年12月期の通期業績を下方修正した。

有力サプライヤーでは独ボッシュがEV販売不振などを受け、30年末までに1万3000人削減する。26日にはシュテファン・ハルトゥング会長が6月末で退任する人事を発表した。

リストラ拡大は一時的な止血効果を見込めるものの、3つの構造問題に対する抜本的な解決策とはなりにくい。欧州の自動車産業が病から立ち直るにはなお時間がかかる。