この人は「敗者復活戦」を戦っているのではないか。輝かしい選手時代も、本人にとっては不本意な負け戦だった。引退から時を経て「監督が怒ってはいけない大会」という試合を自らの意志で開始した。

スポーツ界の旧弊に対し、著名なOGがファイティングポーズをとった意味は大きい。ただし益子氏の行動は個人的な体験に基づくものであり、その手法が万能とは限らない。パワハラか否かは相手の感じ方次第。選手が監督に、生徒が教師に、子が親に、部下が上司に強い指導を求めるケースもあるだろう。

勝つことだけがすべてではない。それでも実際にそう言えるのは勝者だけという矛盾がスポーツ界にはあるようだ。結果が出なければ、負け犬の遠ぼえ。そんな殺伐とした世界だからこそ「せめて子供とスポーツの出会いは幸福なものであってほしい」という益子氏の願いには共感せずにいられない。

(阿刀田寛)